【夏の甲子園2023】第105回全国選手権大会 総括&小ネタ集

入道雲と甲子園球場 高校野球

去る8/23、第105回全国高等学校野球選手権記念大会は無事に全日程を終え、慶応の107年ぶりとなる優勝で幕を閉じました。今大会はどのような大会だったのか、僕の観戦記も交えて早速総括していきたいと思います。どうぞ宜しくお付き合いください!

開会式写真
開会式の様子。(8/6)

慶応、107年ぶりの選手権優勝!

今年の激闘の夏を制したのは、神奈川代表の慶応でした。神奈川県勢としては2015年の東海大相模以来8年ぶりで、自身は第2回大会(1916年:大正5年)以来の、実に107年ぶりの優勝です。第一次世界大戦の真っ只中であり、アインシュタインが一般相対性理論を発表し、レーニンが帝国主義論を発表し、藤村富美男やカーク・ダグラスが誕生し、夏目漱石が死去したのが107年前ということで、改めて高校野球の歴史の深さを示してくれる結果となりましたね。107年前、前身の慶応普通部は東京からの代表として大会に参加し、優勝しました。当時はまだ甲子園球場は建設されておらず、豊中球場で開催されていたため、「甲子園での優勝」は今大会が初となります。同時に、慶応は今大会で大正・昭和・平成・令和の4元号での全国大会勝利を成し遂げました。4元号での勝利は、松商学園、高松商、広陵、広島商、そして今大会で達成した北海に続いての6校目となりました。
今大会の慶応は、主体性を重んじる森林貴彦監督のもと、本当に伸び伸びと野球を楽しんでいるように見えました。チームに清原和博氏の次男がいるという大きな話題性はありましたが、飛びぬけて秀でた選手はいなかった印象です。その中で、選手個々が要所要所で実力を発揮し、広陵や仙台育英といった優勝候補を撃破し、まさに全員野球で見事全国の頂点に立ちました。”Enjoy Baseball”がチームのモットーらしいですが、長髪を靡かせ、爽やかな笑顔を見せながら楽しんで野球をしている慶応選手の姿はまさにそれを体現しており、これまでの高校野球のイメージに新しい風を吹きこんだように感じました。
選手の皆さん、優勝おめでとうございます!

大会全体の印象

今大会は、ベスト8に東北3校、関東2校、九州2校、中国1校が残り、東北勢の強さが光りました。21世紀に入ってからは、東北勢が上位に進出することも珍しくなくなりましたが、東北の強豪校の力強さは現在進行形で健在のようです。一方で、北陸勢は全校が初戦で姿を消し、我らが近畿勢も残念ながら3回戦までにすべて敗退してしまったため、中日本の人にとっては少々寂しい結果にもなりました。
今年はタイブレークが延長10回からの開始となり、ベンチ入りメンバーもこれまでの18人から20人に拡大。5回終了時に10分間のクーリングタイムを設けるなど、新たな取り組みが行われました。これにより、多少なりとも指揮官の考え方や選手の戦い方に影響は生じたと思います。選手の起用に関しては選択肢が広がりましたが、タイブレークに関しては運の要素も大きく絡んでくるため、なるべく9回までに「勝ち越す」試合運びが求められます。また、クーリングタイムをどう活用するかで、後半戦の選手のパフォーマンスも大きく変わりそうですね。
投手に関しては近年のトレンドからの大きな変化はなく、継投で勝ち上がるチームが多数を占めていました。また、英明や北海は投手⇔一塁手といった守備位置変更による小まめな継投を頻繁に繰り返す戦法もとっていました。その中で、徳島商の森くんや、沖縄尚学の東恩納くんといった、ほぼ一人で投げ抜くタイプの好投手の力投も光っていました。
打撃に関しては、あくまで僕の印象に過ぎませんが、全体的に長打力に欠けており、短打で繋ぐ野球が多く見られました。実際に大会ホームラン数は23本と、ここ10年で最も少ない本数となりました。来春からは低反発バットが使用されるため、来年はもっと長打が減ることが予想されます。そんな中で、ボールを遠くへ飛ばす技術を身につけるのか、小技で繋ぐ野球を目指すのか、今後選択を迫られるチームも多いことでしょう。
守備に関して今大会気になったのは、外野手の後逸と、投げても間に合わないタイミングでの内野手の悪送球が目立った点です。どちらもギリギリの中での攻めた守備の結果なので仕方ないとは思いますが、そういう状況下での冷静さや正確性が今後の課題となるでしょう。基礎練習、基本動作をみっちり鍛えた上で、普段からギリギリの状況を想定した練習を反復することが大事だと考えます。

なーんて偉そうなことを散々ほざいてきましたが、単なる素人の戯言ですのでここは読み流して、次のトピックへお進みください。

目を見張った新星

今年も大会前から注目されていた選手を軒並み見ることができましたが、中には当然、ノーマークで今大会を通して初めて存在を知った素晴らしい選手もいました。今大会、僕が特に目を見張った選手は二人います。

一人目は、北海の主軸・熊谷陽輝くんです。大会前まではまったく存じ上げていなかったのですが、この熊谷くん、南北海道大会では打率.762、本塁打5本という驚異的な数字を残しており、満を持して甲子園に乗り込んできていました。僕は今大会、北海の試合は2試合観ることができたのですが、熊谷くんは甲子園でもヒットを打ちまくり、さらに投手としてマウンドでも躍動するという大活躍を見せ、北海の3回戦進出に投打に渡って大きく貢献していました。大柄な体格からは想像できないような器用さも兼ね備えた素晴らしい選手で、プレーを見るのが非常に楽しく、強烈に印象に残りました。3回戦では、ホームランも放っていましたね。純粋に野球がものすごく巧い選手なのだと思います。今後もまたどこかで、熊谷くんのニュースを聞ける日を待ち望んでいます。

熊谷君写真
1回戦 vs明豊、9回裏一打逆転サヨナラのチャンスの場面で打席に立つ北海・熊谷くん。(8/10)

二人目は、鳥栖工の1年生投手・松延響くんです。この投手は、二学年上の捕手であり兄である晶音(アギト)くんと共に、「仮面ライダー」兄弟バッテリーとして今大会注目を浴びましたね。ただこの響くん、話題性だけではなく本当に凄い投手で、1年生ながら今大会自己最速の144キロをマークし、周囲の度肝を抜きました。1年生でこの球速を投げられる投手は全国的に見ても稀有で、響くんは今大会もっとも脚光を浴びた「埋もれていた逸材」と言えるでしょう。もっとも「埋もれていた」と思うのは僕のように知らなかった人だけで、やはり響くんが高校に進学する際は多数の強豪校から声がかかったそうなのですが、響くんはお兄ちゃんとバッテリーを組んで甲子園に出たい、という思いが強く、鳥栖工に進学したそうです。そこから本当に兄弟で甲子園に出場するのですから、凄いですよね。非常にドラマティックです。
響くんは素晴らしいピッチングで佐賀県勢10年ぶりとなる甲子園勝利に大きく貢献し、続く2回戦の強豪・日大三戦でも堂々たる投げっぷりを見せてくれました。お見事でした。まだ1年生ですので、今後が非常に楽しみな選手です。また是非、甲子園に帰ってきてほしいと思います。

松延響くん写真
2回戦 vs日大三戦でマウンドに立つ鳥栖工・松延響くん。(8/14)

しんのG観戦ベストマッチ

今大会、僕は8/6の開幕日と8/10~16までの、計25試合を現地観戦しました。今年も記憶に残る熱戦が繰り広げられました。その中でベストマッチを挙げる場合、1回戦の北海vs明豊や2回戦のおかやま山陽vs大垣日大、3回戦の広陵vs慶応の試合などを本来選ぶべきなのかもしれませんが、僕はタイブレークが嫌いなので、タイブレークにより決着がついた試合はベストマッチ対象外となります。
僕が観戦した、9イニングス内で決着がついた試合の中でのベストゲームは、2回戦の北海vs浜松開誠館です。この試合は今大会の中でも特に引き締まった好ゲームであり、終盤の点の取り合いは非常に見応えがありました。同点の9回裏、今大会の僕の”推し”となった北海の熊谷くんは、先頭でヒットで出て見事サヨナラ勝利を呼び込む活躍を見せてくれました。また、この試合は甲子園最多出場を誇る伝統あるユニフォームの北海と、甲子園初出場であり、チャコールグレーの上下に赤いロゴとストッキングのユニフォームで一際異彩を放つ浜松開誠館、という構図も面白さを際立たせてくれていました。高校野球の伝統と革新、その両面の魅力を堪能できた試合でした。

北海vs浜松開誠館 試合終了時 写真
2回戦 北海vs浜松開誠館 試合終了時。3x-2で北海がサヨナラ勝利を収めた。(8/14)

しんのG観戦ベストプレー

今年も数多くの好プレーをこの目で見ることができました。その中でのベストプレーを選ぶのは非常に難しいのですが、個人的に最も目を奪われたプレーは、土浦日大の松田陽斗くんが3回戦の専大松戸戦で見せた好走塁です。
この試合、専大松戸が序盤に6点を奪ってリードする展開でしたが、3回裏に土浦日大がビッグチャンスを作り、3点を返してなおも無死二・三塁とします。そして、6番打者が一二塁間へゴロを放ち、専大松戸の二塁手が横っ飛びで捕りに行くも、ボールはグラブを弾きます。これを見て三塁走者はホームへ生還し、二塁走者の松田くんも三塁を少し回ったところで止まります。この時でした。弾いて転がったボールを拾い上げた専大松戸の二塁手が一瞬集中を切らし、動きが緩慢になり、ピッチャーへゆっくりとボールを返しました。その一瞬の隙を見逃さなかった松田くんは、なんと一気にホームへ突っ込みます。それに気づいた専大松戸はすぐさまホームへ送球しますが、松田くんは見事生還。6点差がこの回、一気に1点差に縮まりました。
このプレーで土浦日大ナインは一気に活気づき、その後逆転に成功。結果10-6で試合を制しました。
松田くんがホームへ突っ込んだ瞬間、僕は思わず「あっ!ホーム!」と叫び、セーフになった時には大興奮しました。この好プレー、なぜかどのメディアも取り上げていませんでしたが、高い集中力を保ち、一瞬の隙を見逃さなかった松田くんの大ファインプレーだったと思います。ベストプレー賞に認定します。

ちなみにこの試合は、専大松戸の応援団が乗った新幹線が大雨の影響で足止めを喰らい、試合終了までに甲子園に到着できないという悲しい出来事が起きました。ブラスバンドもいない中で、たった6人の控え部員が即席応援団としてアルプスを必死に盛り上げ、試合終盤には球場中の観客が手拍子でこれに応え、独特の空気が生み出されていました。僕はこの時、専大松戸の応援団が到着すればマモノが発動するという予感を抱いていましたが、残念ながら応援団は試合に間に合わず、気の毒な結果となってしまいました。次こそは是非、皆で甲子園に来てほしいですね。

専大松戸vs土浦日大 写真
3回戦 専大松戸vs土浦日大。甲子園から見る日没と、応援団の到着が間に合わず空席が広がる1塁側専大松戸アルプス。(8/16)

しんのGベスト応援賞

さて、今大会のしんのGベスト応援賞の行方はどうなったでしょうか。アルプスの様子を振り返ってみましょう。
今夏はセンバツ同様、人数制限なしの声出し応援が4年ぶりに解禁となり、かつての熱気あふれる応援団の姿が帰ってきました。甲子園と言えば、やはり割れんばかりの拍手と歓声、ブラスバンドと応援団は欠かせない要素ですよね。特に夏の盛り上がりは格別で、今年も様々な学校の応援を楽しむことができました。僕は個人的に、楽しみにしていた明桜のブラバン演奏を久しぶりに生で聴けて嬉しかったです。キングクリムゾンの”21st Century Schizoid Man”も相変わらず演奏してくれていて、大変満足しました。

今夏の応援の特筆すべき点を挙げると、まず演奏曲の中では、現在大人気のアニメ「推しの子」の主題歌であるYOASOBIの『アイドル』を演奏する高校が目立ちました。この曲は自分の”推し”のアイドルについて熱く語る曲ですので、野球選手への応援にも転用しやすそうですね。リアルタイムの流行り曲を我先にと取り入れる学校は多く、さすが高校生だな、といつも思います。高校野球の応援は、その時代の世相も反映していて面白いですよね。

『アイドル』を差し置いて、今大会爆発的に流行した掛け声が、「盛り上がりが足りない」ですね。一定のリズムに合わせて「も!もり!もりあ!盛り上がりが足りない!」と叫ぶやつです。これは今年の春季大会頃から徐々に広がり始め、夏の都道府県大会で爆発的に全国に普及し、ほとんどの学校がやるようになりました。ある記事によると、甲子園でも49代表校中32校がやっていたそうなのですが、体感では8~9割ぐらいの高校がやってるんじゃないかと思うぐらい多かったです。
この掛け声、もともとはインフルエンサーの下田美咲さんが飲み会のコールとして10年前に考案したものであり、それが数年前から茨城県の高校サッカーの応援歌として使用され、声出し応援可となった今年、SNSにより全国に一気に広まったようです。全員で声を合わせて盛り上がれるため、やってる高校生たちは非常に楽しそうで微笑ましいのですが、僕的には正直「誰に向けて、どの目線でもの言うてんねん」という感が否めず、全く好きになれませんでした。ですので、これをやった学校はしんのGベスト応援賞候補から除外となります。この時点で、残る高校は数校となります。

今大会、僕が最も印象に残ったのは、やはり慶応の大応援団です。歴史と伝統のある名門私立・慶応が甲子園に出場すると、毎度球場は慶応関係者でパンパンに溢れ、大歓声が響き渡ることはもはや名物となっています。全国の慶応閥の野球好きが甲子園に集結するのです。これは、早稲田実業が出場する時なども同様ですね。今年僕は久々に慶応の応援を生で観ましたが、やはりもの凄く迫力があり、数千人が肩を組んで歌う「若き血」はまさに圧巻でした。「この応援を観るだけで今日は甲子園に来た甲斐があった」と思わせるような、統率のとれた素晴らしい応援です。
これに加え、今年の慶応の評価すべき点は、上記の「盛り上がりが足りない」をアレンジした「モリバヤシが足りない」という掛け声を発していたことです。モリバヤシとは監督の森林氏のことであり、このアレンジは森林監督へのリスペクトの意味も込めて3年生たちが歌い出したのが発端だそうです。森林監督の息子さんも、控えの野球部員(3年生)です。監督と生徒の関係性が良好であることが窺えますし、どこか男子校特有のヤンチャなノリも感じさせ、流行りものにオリジナリティーを加えている点を高く評価しました。「盛り上がり」と「モリバヤシ」で「O・I・A・A・I」ときれいな韻を踏んでいる点もお見事です。

慶応の応援があまりに凄すぎて、SNS上では「うるさすぎる」「相手選手がかわいそう」「配慮に欠ける」といった苦言も多数見受けられました。ネット記事でも、慶応の応援マナーに対する批判意見が多数取り上げられています。これに関しては、確かに不快に思う気持ちもわからなくはないです。僕も外野席で立って応援している慶応ファンを現地で観た時は、正直邪魔だな、と思ったりもしました。
これらの批判意見も踏まえて選考に迷いが生じましたが、やはりアルプスの応援団に罪はない、ということで、今大会のしんのGベスト応援賞は、慶応応援団に授けたいと思います。おめでとうございます!

おわりに

長くなりましたが、以上で2023年夏の甲子園の総括を終えたいと思います。今年は社が初戦で敗退し、近畿勢も早々に敗れてしまったため個人的には寂しい大会となりましたが、それでもコロナ禍が明けた夏の甲子園は格別で、全てを全力で楽しむことができました。球児の皆さん、ありがとうございました!

高校野球界は早くも秋季大会に突入しています。新チームが始動したばかりのこの秋も、センバツに向けた熱戦が全国各地で繰り広げられるため、今後はこちらにシフトして引き続き高校野球を楽しみたいと思います。

それでは、ここまでお付き合い下さりありがとうございました!

筆者プロフィール
この記事を書いた人
しんのG

高校野球を年間60~90試合ほど現地観戦している関西在住の高校野球ファンです。近畿の高校野球の話題を中心に、ライト層からコア層のファンまで楽しめるような有益なブログを目指して投稿していきたいと思います。
また、音楽も好きなので、音楽関連の想いも綴っていきたいと思います。宜しくお願いします。

しんのGをフォローする
高校野球
しんのGをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました