このコーナーでは、「ファンは当然知ってるんだけど、世間にはあまり広く知られていない」という、隠れた良盤・名盤を紹介していきます。完全に僕の独断でセレクトしますが、決して聴いて損はないアルバムを紹介しますので、どうぞ宜しくお付き合い下さい。
5枚目に選んだCDは、2002年にリリースされたバンバンバザールの6thアルバム、『スゲ・バン・バ!!(Suge Ban Ba)』です。前回に続き、バンバンバザールのアルバムの紹介となります。
バンバンバザール(Ban Ban Bazar)について
バンドについての紹介は、前回の記事「隠れ良盤コレクション#4 『4』/バンバンバザール(Ban Ban Bazar)(1999)」に記載していますので、そちらをご参照ください。
アルバム『スゲ・バン・バ!!(Suge Ban Ba)』について
『スゲ・バン・バ』は2002年、バンバンバザールの6枚目のアルバムとしてリリースされました。前回紹介した『4』からバンドのフロントマンである福島氏、パーカッションの武田氏以外のメンバーが入れ替わり、この頃は4人体制となっています。タイトルの『スゲ・バン・バ』は、当時彼らが住んでいた川崎市多摩区の菅馬場という地名をそのまま使用しています。前作までがジャズテイストの強い、所謂ジャグバンドの模範的なサウンドだったのに対して、このアルバムはややポップス寄りに傾いており、バンバンバザールの変革と進化を感じられるアルバムとなっています。全12曲で構成されているうち、純粋にジャズっぽいサウンドと言えば一曲目の『Just Moment Please』と、ジャズのスタンダードナンバーをカバーした10曲目の『明るい表通りで』ぐらいであり、また8曲目の『あの娘のブルース』は完全にブルースですが、これら以外の曲はかなりロック/ポップスに近いサウンドになっていると言っていいと思います。
このアルバムは本当に捨て曲がなく、どの曲も秀逸な歌詞がサウンドと絶妙にマッチしており、ゲストボーカルを挟むことで作品に幅と奥行きを持たせています。
1曲目のアップテンポの軽快な曲、『Just Moment Please』は、水森亜土さんをゲストに迎えています。水森さんと福島氏の奏でるハーモニーが絶妙で、聴いていて楽しい気分になる曲です。3曲目『色男で雨男』は、スカレゲエバンド”Rocking Time”(2004年解散)の今野英明氏をボーカルに招き、女性にフラれた男の哀愁が表現されています。また、7曲目の「シュラ」ではシンガーソングライターのイノトモさんと一緒に、男の揺れる恋心をゆったりと歌い上げています。イノトモさんのか細いウィスパーボイスが、曲の雰囲気に見事にハマっています。
アルバム全体を通しての印象として、この作品は「大人の男の悲哀と苦悩」が巧みに表現されていると感じます。前作『4』が10代、20代の恋愛と日常を歌っているのに対し、『スゲ・バン・バ』は30代の男が主人公となっているイメージです。2曲目の『さよならと言ってくれ』や4曲目の『君のこと 僕のこと』、9曲目の『シカーダ』、11曲目の『9月の小雨』、さらに上記で紹介した『色男で雨男』や『シュラ』は、どれも大人の男の微細な恋心や未練を、時に情感たっぷりに、時にコミカルに表現しています。また、6曲目の『田舎に帰るのか 都会で暮らすのか』では、社会に出て数年経ち、文字通りこの先の人生を田舎か都会のどちらで生きていくべきかという苦悩を描き、12曲目の『Free』では、過去を拭い去り、前向きに、自由に生きていこうという決心が表れています。『4』が”今”とどう向き合い、”今”をどう生きるかを歌っているとすれば、『スゲ・バン・バ』は”過去”とどう向き合い、”未来”をどう生きるかに焦点が変わっていると感じます。
曲調もバラエティーに富んでおり、メジャー調とマイナー調を巧く使い分け、テンポも様々で聴き手を全く飽きさせません。
バンバンバザールはこの作品を通して、こうした30代の男の恋愛観や人生観を秀逸な歌詞と音で見事に表現しています。誰にでも突き刺さり、心を揺さぶられ、感性をくすぐられるフレーズが至る所に散りばめられており、曲もキャッチーで聴きやすいため、自信をもってオススメできる良盤です。
思い出
前作『4』でバンバンバザールの存在を知った当時高校生の僕は、このアルバムが出たとき、割とすぐに購入した記憶があります。そしてリリースされて20年以上経った今でもよく聴いている、お気に入り中のお気に入りのアルバムです。
今でも覚えているのは、20代前半の頃、新卒で入社した職場で隣のデスクの3つ年上の先輩女性にオススメの音楽を聴かれ、このアルバムを貸したことです。その先輩はこのアルバムを非常に気に入ってくれて、他のバンバンバザールのアルバムも購入するようになるほど聴きこんでいました。『さよならと言ってくれ』のサビの部分の、”長い間一緒にいたけど分からないこと 初めて会ったその時とっくに分かってたこと”という歌詞がすごく良い、という先輩の感想が印象に残っています。
前述の通りこのアルバムは大人の男の心情を表現しているため、若い頃は歌詞の意味は分かっても生活の中で共鳴することはできませんでした。しかし、色んな経験を積み歳をとっていくにつれて、この作品で歌われている内容が深く心に浸み込んでくるようになり、過ぎ去った恋や今抱えている苦悩、そしてどう転んでいくのかわからない未来に想いを馳せるようになりました。人は生き、成長していく中で価値観や感性が少しずつ変化していくと思いますが、このアルバムはいつの時代の自分の心にも寄り添ってくれた、優しいアルバムだとつくづく感じます。
気になった方は是非アルバムを買って聴いてみてください。また、彼らのライブにも行ってみて下さい。
決して聴いて損のない良盤です。
おわり
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