このコーナーでは、「ファンは当然知ってるんだけど、世間にはあまり広く知られていない」という、隠れた良盤・名盤を紹介していきます。完全に僕の独断でセレクトしますが、決して聴いて損はないアルバムを紹介しますので、どうぞ宜しくお付き合い下さい。
4枚目に選んだCDは、1999年にリリースされたバンバンバザールの4thアルバム、『4』です。
☆これ、名盤です。
バンバンバザール(Ban Ban Bazar)について
バンバンバザールは1990年、福島康之氏を中心としたジャグ・バンドとして結成され、94年に1stアルバム『リサイクル』をリリースしてデビューしました。ギター、ウッドベース、バンジョーに加え、ピアノ、クラリネット、トランペット、ウクレレなどの多彩な楽器を使用するバンドで、メンバーはコロコロと入れ替わり、現在はボーカル・ギターの福島氏とベースの黒川修氏の二人体制となっています。もともとメンバーそれぞれが個人のミュージシャンとしていろいろなバンドで活動していたようなので、バンドという形態に縛られない、福島氏を中心とした音楽集団と言った方が的確かもしれません。
ジャグ・バンドとしてスタートしていることもあり、バンドのサウンドはオーソドックスでトラディショナルなジャズを基調としており、そこに付随してジャイヴ、ブルース、フォーク、カントリー、ハワイアンなど多彩な音楽を奏で、コミカルな日本語の歌詞に合わせて歌います。ジャズのスタンダードナンバーも独自に意訳してカバーしたりしています。さらに、今回紹介する『4』以降の作品では、ポップスに近づいた曲も数多く見られるようになります。
本人たちはライブ・バンドであることを自負しており、初期はストリート・ライブを数多くこなし、メジャーデビュー後も現在に至るまで長きに渡って全国のライブハウスを精力的に回っています。音楽フェスにも多数出演しています。また、2002年には「ミュージシャンが楽しむためのフェスを作ろう」というコンセプトをもとに、多くのミュージシャンやバンドを呼んで「勝手にウッドストック」というフェスを自主企画で開催しました。この「勝手にウッドストック」は、以降2018年まで毎年相模湖畔みの石滝キャンプ場で開かれていました。
数十年に渡って様々なジャンルの良質な音楽を生み出しつつ、生演奏にこだわったライブを精力的に行い続ける、まさにベテランながらも常にフレキシブルなバンドと言えます。
アルバム『4』について
『4』は1999年、バンバンバザールの4枚目のアルバムとしてリリースされました。当時のバンドは5人体制でした。ジャズの持つ魅力や勢いといったものを前面的に押し出したフルオリジナルアルバムであり、彼らの代表作として燦然と輝く名作です。あまりに素晴らしいアルバムであるため、1曲ずつ紹介していきます。
1.Fryday Night エビフライ
元気いっぱいで賑やかなスウィングでアルバムは始まります。年季が入った倦怠期の夫婦の様子を、コミカルに歌い上げています。エビフライを作ってくれという旦那と、レストランに連れて行けという嫁のお互いの心のすれ違いが、面白おかしく絶妙に表現されています。非常に盛り上がる一曲です。
2.夏だったのかなぁ
明るいトランペットの音色が心地よい曲です。なんとなくその日暮らしで生きていそうなバンドマンが、楽器を担いで吉祥寺の街に繰り出そうとする曲です。若い頃、訳もなく感じていた気だるさとウキウキ感のようなものを思い出させてくれる、不思議な曲です。
3.こんな気持ち
宍戸留美さんをゲストに迎えたデュエットのバラードです。クラリネット、ピアノ、ベースが奏でる優しいメロディーに乗せて、恋愛初期の初々しい男女の気持ちを歌っています。非常に心温まる曲です。宍戸留美さんの歌声もとてもキュートで魅力的です。若い頃の恋心を思い出して少し憂鬱にもなります(笑)
4.Sweet Honey Bee
こちらもゆったりとしたバラード調の曲です。雨っぽさを思わせる、ややくぐもったエレキギターのエフェクトが心を落ち着かせます。こちらは、オリジナルメンバーだった安達孝行氏がボーカルを務めています。基本はメジャーコードで進行しますが、ちょっぴり切なさを感じる曲です。エレキギターとホーンセクションが掛け合う間奏が秀逸です。ある雨の降る春の朝、遠距離恋愛中なのでしょうか、しばしの別れを惜しんで泣いている恋人(女性)に戸惑う男性の心理を歌っています。
5.こないだのことさ
軽快なリズムにジャズ・オルガンを乗せた曲です。はっきり男女と表現されていませんが、恐らくは男女の歌でしょう。酒の席で「お前」と何らかの約束をとりつけたものの、いまいち手応えを掴めていない男のやるせない感情を歌っています。”心の掲示板に画鋲打つほど大事な”という歌詞が何とも秀逸です。
6.そういうこと
アップテンポのノリノリのスウィングです。かつてのクラスメイトと思われる女性からの10年ぶりの突然の電話に淡い期待を寄せるものの、実はマルチまがいなセールス目的の接触でありがっかりするという内容の曲で、非常に明るくコミカルで、キャッチーな名曲です。
7.彼女待ってただけなのさ
こちらもキャッチーな明るい曲です。ホーンセクションとピアノの掛け合いによる間奏が非常に秀逸です。曲の内容はいまいちはっきりわからないのですが、どことなく歯車がうまく噛み合っていない日常が思い浮かばれます。
8.遠い君の家
甘いメロディーのスローテンポのバラードです。ミュートを使用したトロンボーンやトランペットの眠気を誘う音色が印象的です。泣いている恋人を気遣い、遠い「君」の家まで会いに行くという内容の、優しい曲です。
9.4時間座っていたけれど
オリジナルメンバーの南一夫氏ボーカルの、一発録り風のブルースです。ボーカルとアコースティックギターのみの短い曲となっています。”むかつく君にはチョコレート ダメな僕にはハイライト”という秀逸な歌詞で始まる、恋人と喧嘩した後の男性の虚しい感情を軽く歌い上げています。個人的に大好きな曲で、若い頃は女性にフラれる度にこの曲を聴き、ハイライトをボコスカ吸っていました(笑)
10.君のいない夏
ビッグバンド風の出だしで始まる、ミドルテンポの曲です。恋人と別れた後、未練を残しながら一人で夏を乗り切る男の喪失感を巧みに表現しています。
このアルバムの最も優れている点は、とにかく聴いていて親しみやすく、楽しいというところに尽きます。サウンド自体はオーソドックスなコード進行を踏襲しているため決して斬新ではありませんが、キャッチーなメロディーに乗せてコミカルで親しみやすい秀逸な日本語で歌い上げることにより、黒人音楽をわかりやすく、より身近な存在として僕たちに提供してくれています。しかも、きれいごとではなく、誰もが普段経験するような日常のちょっとしたモヤモヤ感や歯がゆさ、虚しさ、切なさを歌うことで、絶妙な距離感で聴き手の感性をくすぐってきます。前述の通り、このアルバムはジャズの魅力がぎっしりと詰まった作品であり、ジャズが好きな人もそうでない人も、素人も玄人も、万人が楽しめる内容となっています。個人的には、本当に隠れた名盤だと思います。「音楽って本当にいいもんだな」と純粋に体感できるアルバムです。
思い出
バンバンバザールとの出会いは今でも忘れません。高校生の時、今はなき姫路のフォーラスの7Fにあった雑貨屋で、店内のBGMにこの『4』が流れており、一目惚れならぬ「一耳惚れ」をして衝動買いをしました。まさに衝撃的でした。まだまだ耳が肥えていないガキだった当時の僕にとっては、世界が広がる感覚を覚えました。世の中にはこんなバンドもいるんだな、と感銘を受けたのです。僕はずっと吹奏楽部でトランペットを吹いていたため、よく彼らの楽曲のトランペット部分を耳コピして吹いていたのを覚えています。
それからというもの、僕は今までずっと彼らの音楽を聴き続けています。そして、今まで彼らのアルバムを何人かに貸したことがありますが、皆口をそろえて「良かった」と言ってくれますし、評判がいいです。バンバンバザールは世間に広く知られておらず、知る人ぞ知るといったバンドですが、もっともっと評価されていいバンドだと、僕は昔から思っています。これからの活動も楽しみなバンドです。
気になった方は是非アルバムを買って聴いてみてください。また、ライブにも行ってみて下さい。
聴いて大満足の名盤です。
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