2023年センバツの選考委員会が1/27(金)に開かれます。僕は毎年、現地観戦も含めて秋季近畿大会の試合内容をチェックし、結果からセンバツ選出校を予想します。しかし、すんなりと決まることはほとんどなく、選考は毎年難航し、メディアやネット上では議論が紛糾することが多々あります。また、近畿地区には独特の「暗黙のルール」が存在し、それが余計に議論をややこしくさせます。今回は近畿地区のセンバツ選考の謎に迫り、過去の事例を振り返りながら傾向を探っていきたいと思います。
近畿地区出場枠と選出方法おさらい
現在、センバツの近畿地区の一般枠は6枠となっています。以前は7枠だったのですが、大会方式の再編等により2002年から6枠で定着しています。7枠時代の選考はあまり参考にならないため、本記事では2002年以降の選考について見ていきたいと思います。
選考は前年秋季大会の結果及び試合内容を参考に執り行われます。基本的にベスト4以上の高校は当確となり、残る2枠は準々決勝で敗退した4校を比較して選出します。比較方法は近畿大会での試合内容が最も重視され、評価が並んだ場合は地域性(なるべく多くの府県から選出されるようにすること)が加味され、さらに府県大会の順位等も参考とされます。また、一般枠の選出は同一府県で2校までと決められています。後述しますがこれらはあくまで基本スタイルであり、過去には多々例外が存在します。
ここで抑えておきたいのが、センバツはあくまで主催者である高野連及び毎日新聞による「招待」制の大会であるということです。秋季大会は選考過程において参考とされるだけであり、予選ではありません。
途切れたことのない「公立枠」
今年で95回目となる長い歴史を誇るセンバツですが、近畿地区には第1回大会から途切れたことのない記録があります。それは、必ず公立校が1校以上選出されているという記録です。高校野球ファンの間で「公立枠」と呼ばれているこの枠、高野連は公式にその存在を認めていませんが、事実上の「暗黙のルール」と化しています。前年秋季大会のベスト4に公立校が残っていない場合等は、ベスト8の比較選考において公立校は優先的に選出される傾向があります。
この公立校の連続出場記録ですが、2002年以降では、3度消滅の危機がありました。2010年及び2014年の選考では、前年秋においてベスト8に公立校が1校も残らず、ピンチを迎えたのです。しかし、近畿の選考委員会はこのピンチを21世紀枠を駆使して乗り越えました。2010年に向陽(和歌山)を、2014年には海南(和歌山)を21世紀枠にねじ込んで、何とか危機を凌ぎました。
また、2017年の選考では、前年秋のベスト8に公立校が高田商(奈良)しか残らず、しかも準々決勝では履正社相手に0-7と完敗し、選出がかなり難しい状況となりました。頼みの綱である21世紀枠も、前年まで3年連続で近畿地区から選出されており、4年連続の近畿からの選出は批判を免れない状況となったのです。まさに大ピンチです。
しかし、ここで奇跡は起きました。なんと履正社が明治神宮大会で優勝し、神宮枠を近畿地区に持ち帰ってくれたのです。この神宮枠を高田商に与えることにより、「公立枠」は無事継承され、今日に至っています。
この先、同じようなピンチが訪れた場合も、公立校には何らかの救済措置が講じられるのでしょうか。この公立枠はなかなか選考を難しくしてくれる要素です(笑)。
「大阪枠」の存在が示唆された伝説の「センター返し枠」事件
2003年の選考において、高校野球ファンの間ではもはや伝説となっている有名な事件が起きました。「大阪枠」発動事件です。一体どういう騒動なのか、解説していきます。
戦前の第4回大会のみを除き、センバツで大阪からは必ず1校以上選出され続けています。これは単に大阪のレベルが高く、秋季大会で必ずどこかの高校が当確レベルまで勝ち進むからです。甲子園は大阪からの集客が非常に多いため、大阪の高校の出場は高野連も非常に期待しているはずであり、また大阪代表は見事にその期待に応えています。
しかし、2002年の秋季大会、史上初めて大阪代表が初戦で全滅してしまい、出場の可能性がかなり危ぶまれることになりました。さらに大阪勢不在の準々決勝は4試合とも接戦となり、惜敗した近江(滋賀)、育英(兵庫)、南部(和歌山)、箕島(和歌山)の4校で2枠を争うことが確実視されていました。大阪代表を逆転選出させるのはかなり難しく、出場記録が途切れることは濃厚と考えられていました。
ところが、6枠目に滑り込んだのは、なんと初戦で敗退した大阪の近大付だったのです。しかも、選考理由は「センター返しができる粘り強い打線を持っている」という何ともフワフワした後付け感満載のものであり、これには多くのファンが驚き、怒り、嘆き、笑い、腰を抜かしました(笑)。
この選考は明らかに大阪への忖度と考えられ、巷では「大阪枠」発動と騒がれ、ネットでは「センター返し枠」と揶揄され、ファンの間では今も語り継がれる伝説となりました。
囁かれる和歌山優遇疑惑
2000年代後半頃より、密かに囁かれていることがあります。それは、「和歌山が優遇されているのでは」という疑惑です。過去の選考を見ていくと、そう疑われるような事実が存在しています。
まず、2007年、県和歌山商が初戦敗退にも関わらず、初戦突破を果たした近江、智弁和歌山を差し置いて選出を果たします。この年は智弁和歌山が選ばれてもおかしくはなかったため、これだけではまだ和歌山優遇とは言い難いのですが、県和歌山商は21世紀枠の推薦校にもなっており、和歌山公立校を出場させたいという高野連の思惑が垣間見れる選考となりました。
その後、2010年~2015年の短いスパンで、21世紀枠に和歌山の公立高校が3度も選出されます。この頃から、高野連における和歌山の政治力の強さがネット上で囁かれるようになりました。
和歌山優遇疑惑を決定づけたのが、2016年の選考でした。この前年秋の準々決勝は、
大阪桐蔭9-4智弁学園 | 明石商7-0市和歌山 (7回コールド) |
滋賀学園1-0報徳学園 (延長14回) | 龍谷大平安7-0阪南大高 (7回コールド) |
となり、議論の余地なく5枠目&6枠目は智弁学園と報徳学園にすんなり決まるかと思われました。当時の僕も、悩むことなくこれで決まりだと考えていました。ところが、その後に21世紀枠の近畿地区推薦校が兵庫の長田に決定した時、何だか嫌な予感がしました。「報徳を落として市和歌山をゴリ押し選出し、兵庫への帳尻合わせとして長田を21世紀枠で選出するのでは」という予感です。兵庫には明石商、報徳というセンバツ当確校2校がありながら、21世紀枠に長田を推薦するのはどうも不自然でした。21世紀枠と一般枠は別選考とはいえ、原則同一県からの3校選出は撤廃されたと考えられていたため、あえて長田を推薦する理由がないのです。これはもしや…と思ったら、嫌な予感は的中してしまいました。
蓋を開ければ、市和歌山と長田が選出され、報徳は落選してしまいました。市和歌山の選出理由は「7回にエースに代打を送り、勝負に出てのコールド負け」だったからダイジョウブ、「報徳は実力的には市和歌山と互角だった」といったこれまたフワフワした理不尽なものであり、地域性で市和歌山に決まったとのことです。表向き、21世紀枠は一般枠とは切り離して選考されるはずなのですが、ファンの間では全ては裏で操作された計画的選考なのではないか、との声が上がりました。当然ながらこの選考はかなりの批判を浴びるとともに、結果的に高野連の和歌山優遇疑惑が表面化した事例となったのです。
ちなみにこの2年後の2018年、滋賀県から一般枠で近江、彦根東、さらに21世紀枠で膳所が選出され、撤廃されたと思われていた同一県3校選出があっさりと実現しました。この選考は高校野球ファンに大きな衝撃を与え、疑問を投げかけることになりました。「3校がアリなら、2016年は兵庫3校が妥当だったんじゃね?」と誰もが思ったことでしょう。これはまさに高野連の選考の不透明さが如実に示された事例となりました。
かつて存在した(?)「兵庫枠」
甲子園の地元・兵庫県の高校は、1982年に選出ゼロとなった以後、長年に渡って1校以上の連続出場を果たしていました。兵庫も大阪と同じく激戦区だけあってレベルが高く、秋季大会においてどこかの高校が当確レベルまで勝ち上がっており、地元の意地を見せ続けていました。
そんな兵庫にも、「地元枠」なるものが存在するとかつては言われていました。これは1993年、兵庫勢に目ぼしい選出候補がいない中で、秋季大会の初戦敗退校である川西明峰が逆転選出されたことで広く世間に露呈されました。
2002年以降も、「兵庫枠」が発動した年がありました。2012年の選考では、前年秋初戦で兵庫勢が全滅し、長年続いた連続出場に黄色信号が灯ったのです。しかし、そこは困った時の21世紀枠と言わんばかりに、近畿の選考委員は洲本を21世紀枠候補に推薦し、見事選出。危ないところで兵庫は選出ゼロを回避しました。
そんな兵庫枠ですが、その3年後にはついに終焉を迎えます。兵庫勢は再び秋初戦で全滅の憂き目に遭い、2015年に万策尽きて選出ゼロとなってしまったのです。これにより存在するとされていた「兵庫枠」は消滅し、さらに3年後の2018年も兵庫勢は選出ゼロで終わっています。
そもそもの選考基準とは
これは近畿地区に限った話ではありませんが、そもそもセンバツ選考における明確な選出基準は存在せず、これまで一貫性がないとよく批判されていました。時に地域性が決め手となったり、純粋に戦力で評価したり、府県大会の順位に拠り所を見出したり、政治的な力を働かせたり…。さらに、地区によっても選出方法は異なっており、バラツキが見られます。前述の通り、近畿は6枠なので毎年揉めるのはある意味必然でもあるのですが、決めやすいとされる2枠や4枠の他地区においても、昨年の「聖隷クリストファーの悲劇」のような選考が起きることもあります。
こうした批判を受け、高野連は昨年、「選抜選考ガイドライン」を公表しました。選考基準について初めて明文化されたのです。その内容は、以下の通りです。
1、秋季大会の試合結果と試合内容を、同程度の割合で総合的に評価する。 |
2、試合内容については、技術面だけでなく、野球に取り組む姿勢なども評価対象とする。 |
3、複数の学校の評価が並んだ場合、できるだけ多くの地域から出場できるよう考慮する。 |
4、府県大会の結果は参考にするが、選考委員が視察する地区大会の内容を優先する。 |
今回の公表において、高野連は「地域性」と「地区大会の内容優先」の2点について具体的に明言しました。はっきり言うとこのガイドラインはまだまだモヤっとしており、明確な基準とは言い難いですが、これを公表したからには、今後はしっかりと一貫性のある厳正で公平な選考がなされることを、一ファンとしては希望したいです。
おわりに
ここまで見てきたように、近畿地区の選考には独特の歴史があり、過去に何度も物議を醸しています。しかし、三者三葉の意見があるため毎年何かしらの文句が出るのは当然で、たまに無茶苦茶な選考はあるものの誰もが納得のいく選考はなかなか難しいのではと思います。いずれにせよ、選出の是非に関わらず、全力を尽くした選手たちに罪はないということは忘れてはいけないと思いますね。また、当事者の皆さんは大変でしょうが、僕のようなただのファンは毎年センバツの選考をあーだーこーだ言いながら予想するのを結構楽しんでいます(笑)。
なお、今年の近畿地区の選考予想はこちらにありますので、よければぜひご覧ください。
今後もどんな選考が行われるのか、命ある限り注目していきたいと思います!
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