「夏の甲子園」の暑さ対策についてガチファンが思うこと/その③ 「次の一手」の提言

甲子園球場 高校野球

こんにちは!

近年叫ばれ続ける「夏の甲子園」の酷暑問題について、過去二回に渡る記事の中で僕なりの持論を展開してきました。今回はこれらをふまえた上で、今後夏の選手権にあたって採用し得る、現実味のある対策案は何があるのか、模索していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

2023夏開会式

暑さ対策への更なる「次の一手」

酷暑問題について考える本シリーズにおいて、僕は第一弾で夏の選手権大会そのものへの批判について疑問を呈し、第二弾では夏の選手権のドーム移転、他会場移転、甲子園のドーム化が非現実的であると述べてきました。
今回はそのことをふまえ、夏の選手権をこれまでと同様の規模で、甲子園で行う」ことを前提とした上で、暑さ対策に関して更なる改善案は何があるのかを考えていきたいと思います。第一弾でも述べた通り、高野連はここ10年で、投手の球数制限導入、給水タイムの実施、延長戦のタイブレーク導入、白スパイクの解禁、クーリングタイムの導入、ベンチ入り人数の増員による選手の負荷軽減、といった策を矢継ぎ早に講じており、更なる大々的な策として二部制の試験導入も決定しました。ここからさらに「次の一手」としてどのような手段があるのか、僕なりの案を提示します。

案① 二部制の本格導入

高野連は4/19に開かれた運営委員会で、今年(2024年)の夏の大会での二部制導入を決定しました。今年は第1日~第3日までを3試合日とし、試合を朝夕開始の2部に分け、午後の最も暑い時間帯でのプレーを避けるというもので、試験的な導入となります。また同時に、準決勝を8:00開始、決勝を10:00開始とし、これまでよりも開始時間が前倒しとなることも決まりました。
僕はいつも甲子園に行くと第1試合から最後まで観ているので、運営の想いを無視した率直な感想としては「ついにここまで来たか…」という感じで、歓迎よりも落胆の感情の方が今のところ大きいです。ですが、さんざん言われているように近年の暑さは本当に酷く、大会の開催すら危ぶまれるほどのところまで来ていますので、しょうがないか…、と割り切っています。僕もどんどん歳をとり体力もなくなっていくので、ある意味でこれは高校野球を観戦する側の転換期でもあり良い機会だと捉えることにします。僕と同じように一日フル観戦している方は、皆同じような感想を抱いているのではないでしょうか。多くの人が残念に思いつつ、諦めるしかないという気持ちでしょう。

観客は1部2部で入れ替え制となり、1部終了から2部開始まで3~4時間前後の待ち時間が発生します。恐らく僕の観戦スタイルも変わることとなり、1部2部どちらかに絞っての観戦になると思いますが、問題は観たいカードが1部2部でバラけてしまった場合です。両方を観る場合、1部終了後2部までどこでどうやって時間を潰すかという問題と、終了時間が遅くなるので体力的な不安があります。遠くから観戦に来る遠征組や連日全試合観戦派にとってはこれまでよりも球場での滞在時間が長くなり、体力は削られ、過酷な観戦となりそうです。

この二部制について、関係者や世間一般の意見は概ね肯定的ですが、第3試合終了が夜遅くなるため高校生の帰宅の安全性が懸念されています。また、雨天による試合の遅延や中止判断、日程の再調整、観客・応援団への対応も、これまでよりも更に柔軟性が求められます。
加えて試合面について言うと、ナイター試合が必然的に増えますので、ナイター設備が整っている学校、特に強豪私学がこれまでよりも有利になるのでは、と予想されます。

ですがとにかく、暑さ対策として何かやらなければという状況に追い込まれている以上、やらないよりはやった方が良いと思いますので、まずはやってみて不具合を洗い出し、今後解消していけば良いのでは、と思います。この二部制をやることで少なくとも夏の最も暑い時間帯に試合をすることがなくなりますので、熱中症のリスクとしては確実に低減します
恐らく今年の試験的な導入で大きな問題がなければ、来年からは4試合日にも導入されると思いますので、ここはひとまず様子を見てみましょう。

甲子園ナイター試合
二部制の導入により、夏の甲子園は「ナイター試合が当たり前」の時代に突入する。

案② ミスト噴霧

これは高野連ではなく阪神電鉄にお願いするべき案件になりますが、ハード面の対策として球場内の至る所からミストを噴霧して少しでも温度を下げる、というのはどうでしょうか。コスト面でかなりの障壁がありそうですが、少なくともドーム化に比べれば遥かに現実的かと思います。例えば、ベンチの上やフェンスや銀傘などに細い水道管もしくはホースを張り巡らせ、先端にノズルを付け、グラウンド上の気候条件がある一定の基準を超えた際に、グラウンド内に向けてミストを噴霧するのです。

実際、徳島県のオロナミンC球場では、ベンチ上にミストシャワーを設置し、県大会にて噴霧している実績があり、また、近年の夏の大会では応援団席で携帯型のミスト噴霧器が使用されているのをよく見ます。
実際にやってみると、視界が遮られたり、ほとんど効果がない、といった結果になるかもしれませんが、少なくとも体感温度は下がるのではないか、と思います。完全に素人考えですが、やってみる価値はあるのではないでしょうか。

ちなみに、初めはドローンを大量に使用してプログラムを組み、上空からミストをばら撒けばいいのではないかとも思ったのですが、これは安全面でリスクがあり、法令的にも問題がありそうなので却下しました。何年か前、阪神に在籍していたゴメスが甲子園練習中にドローンを飛ばし、球団から厳重注意を受けたことがあるのをつい思い出しました(笑)

案③ 選択的DH制の導入

運用面での改善策として、選手の負担軽減を目的とした選択的DH制の導入は、検討に値すると思います。現在、野球の国際大会ではDH制が主流となっており、本場メジャーリーグでも長らく採用していなかったナショナル・リーグが2022年より採用したことで、両リーグともDH制となっています。日本のアマチュア野球においても、社会人野球の主大会はDH制が導入されており、大学野球では東京六大学野球連盟と関西学生野球連盟を除く大半の連盟が導入しています。

DH制は、投手をメインとする守備に特化した選手の体力を温存することができ、出場選手も増やすことができますので、選手起用の幅を広げることができるという大きなメリットがあります。主なデメリットとしては、戦術的な駆け引きが減るという点と、選手層の厚い強豪校が俄然有利になるという点が挙げられますが、高校野球において特に酷使されがちな投手の負担を少しでも減らすためには、採用してもそこまで批判は出ないかと思います。

もちろん、部員不足であったり、打撃が得意な投手もいますので、DH制の選択権は各チームに委ねるという形にするべきですが、選手の負担軽減への「次の一手」として、DH制は有効であると考えられます。

案④ 点差によるコールドゲームの導入

これはできれば甲子園では避けたい案ですが、点差によるコールドゲームの導入も視野に入れる段階に来ているかもしれません。高校野球では地方大会において、5回(もしくは6回)終了時点で10点差以上、7回(もしくは8回)終了時点で7点差以上の点差がついた場合、コールドゲームとなり試合終了となります。これは多くの地方大会で、決勝戦を除くすべての試合で適用されています。また、明治神宮大会においてもコールド制は採用されています。
しかし、この点差によるコールドゲームは甲子園では春夏共に採用されていません。この理由は、「甲子園に出てくるチームはいくら点差がついても逆転できる力がある」という思想が根本にあるようです。

実際、高校野球では稀に大量点を逆転するケースが見られ、僕もこれまで甲子園で8点差を逆転したゲーム(2014年夏の大垣日大vs藤代)や、8点差を一時追いついたゲーム(2015年夏の関東第一vs高岡商)などを生で観たことがあります。また、有名な大逆転試合としては、2014年夏の石川県大会決勝で、小松大谷相手に0-8とリードされていた星稜が9回裏に9点を入れて逆転サヨナラで甲子園出場を決めた、という信じられないような奇跡も起きました。

大垣日大vs藤代のスコア(2014.8.12)
夏の96回大会1回戦で観戦した大垣日大vs藤代のスコア(2014.8.12)
関東第一vs高岡商のスコア(2015.8.11)
夏の97回大会2回戦で観戦した関東第一vs高岡商のスコア(2015.8.11)

せっかく甲子園まで来たのですから選手には9回まで試合をさせてあげたいですが、大量点が入る試合は当然試合時間が長引き、負けている方のチームは必然的に投手の球数が増え、守備につく時間も長くなります。選手の健康面を考慮すると、大量点差がついた試合でコールド制を採用するという案は、現実的には検討されるべき議題かもしれません。「次の一手」として、例えば7回時点で10点差以上という、地方大会よりは甘い条件からスタートしてみてもいいかもしれません。

絶対にやってほしくない「7イニング制」の導入

「次の一手」として個人的に絶対にやってほしくないことは、「7イニング制」の導入です。近年、暑さ対策として試合時間短縮を理由にこの「7イニング制」導入を主張する意見が見られるようになりましたが、これは野球の魅力を大きく損なう制度だと思いますので、僕としては大反対です。

野球はそもそも9イニングやることで、各打順平等に、最低3回は打席が回るような仕組みとなっています。その中で、攻撃側は相手投手が疲れたところを突いたり、攻略法を見出したり、ここぞの場面で代打を送ったりし、逆に守備側は継投策を講じたり、守備固めを行ったりします。終盤のベンチワーク、駆け引き、攻防は野球の最大の魅力であり、高校野球では特に7、8、9回に試合が大きく動くことが多々あります。ところがこれを7イニングにすると、この終盤の攻防が見られることなく試合はあっけなく終了し、単調な試合が増え、競技としての面白味は激減してしまうと思います。野球は9イニングやってこそ、その魅力が引き出されるのです。

「7イニング制」導入を推進する人がよく引き合いに出すのが、U-18W杯です。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催で行われているU-18W杯では、昨年(2023年)行われた大会より7イニング制が導入され、これを日本の高校野球においても導入すればいい、という主張です。しかし、このWBSCが導入した7イニング制は、もともと試合時間短縮による野球競技の五輪採用の復活を目的としており、競技人口が少なく選手層の薄い国々が強豪国に対抗できるようにするために講じられた策であり、青少年の健康のために導入されたという背景はありません。確かに7イニング制にすることで試合時間は短縮されるかもしれませんが、競技人口が多く選手層の厚い日本国内においてわざわざこの国際的な新基準に合わせに行く必要はないと僕は思います。日本においてこれを本格導入すると、前述の通り野球の面白味が減り、野球人気低下の要因にもなりかねませんので、安易に考えない方がいいと思います。

まとめ

以上、ここまで3記事に渡り、「夏の甲子園」の暑さ対策について僕が思うことを書きなぐってきました。ここで最後に僕の主張を箇条書きにしてまとめておきます。

  • 「夏の甲子園だけ」を批判するのはおかしい
  • 高野連は外野の声に過剰反応せず、できることから少しずつ改善していけばいい
  • ドーム開催、甲子園のドーム化は現実的ではない
  • 大会を甲子園から移転するのは、選手ファーストとは言えない
  • 「次の一手」はまだある
  • 7イニング制は絶対にやめてほしい

その①の冒頭でも述べましたが、この暑さ対策については様々な意見があり、何が正解なのか結論を出すのは難しいです。僕自身も長々と意見を主張してきましたが、自分が絶対的に正しいとは決して思いませんし、ただ一高校野球ファンとして思うことを述べているだけです。近年、あまりにも夏の甲子園に対する的外れな批判が多いため、この状況を少しでも打破し、より現実的で建設的な策によって高校野球の良い部分を維持していきたい、というのが僕の本音です。

高野連のこれまでの対策や僕がここで述べてきた案は、所詮小手先の対策に過ぎないかもしれません。しかし、長い歴史と伝統を誇る高校野球の存続のためには変えるべきことと遺すべきことがあり、その分かれ目をしっかりと見定めながら小手先の技術で少しずつ改善していくことが最も重要なのではないか、と僕は思います。選手、周囲の大人、ファンの三者によるバランスの上で高校野球は成り立っています。このバランスが今後崩れてしまわないよう、冷静な判断が求められます。

筆者プロフィール
この記事を書いた人
しんのG

高校野球を年間60~90試合ほど現地観戦している関西在住の高校野球ファンです。近畿の高校野球の話題を中心に、ライト層からコア層のファンまで楽しめるような有益なブログを目指して投稿していきたいと思います。
また、音楽も好きなので、音楽関連の想いも綴っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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