白球の追憶#3 最強王者を追い詰めた公立校/明石商vs大阪桐蔭(’18春近畿)

野球ボール 高校野球

このコーナーでは、僕が過去に現地観戦した高校野球の数多ある試合の中で、特に印象に残っている試合を備忘録として振り返り、紹介していきます。

第三弾となる今回は、2018年に明石トーカロ球場で行われた春季近畿大会1回戦、明石商vs大阪桐蔭の試合を採り上げたいと思います。

なお、自分の記憶とメモをベースに語っていきますので、事実誤認や勘違いも出てくるかと思いますが、その点は予めご容赦ください。

明石球場写真
試合終了時撮影。春季大会とは思えない観客数と盛り上がりだった。

背景

2018年5月26日、明石トーカロ球場にて、春季近畿大会1回戦(準々決勝)となる明石商vs大阪桐蔭の試合が行われました。この試合は、全8チームが参加する春季近畿大会の開幕戦でもありました。

2年ぶりに春の兵庫を制し、兵庫1位として出場した狭間監督率いる明石商は、福谷、加田、勝本といった複数の好投手を擁し、後にプロ入りする捕手・水上や、重宮、安藤などの期待の選手が新2年生ながらレギュラーの座を掴んでいました。さらに驚くべきことに、後に甲子園で活躍して全国的に名を轟かせ、プロ入りすることとなる中森、来田が、入学して間もないながらも既にスタメン入りしており、大器の片鱗を見せていました。

一方の大阪桐蔭は、直前のセンバツで全国制覇を果たし、春の大阪大会も見事制してまさに無敵の状態で兵庫に乗り込んできました。根尾、藤原、柿木、横川らを中心とした“最強世代”と呼ばれる世代が3年生となり、チームを牽引していました。

当時、大阪桐蔭があまりにも強かったため、この試合も下馬評では大阪桐蔭優位の声が多かったのですが、層の厚いメンバーを揃え、粘り強い野球が特徴の明石商も決して大阪桐蔭に見劣りしない強さを誇っており、まさに柔と剛がぶつかり合う好試合が予想されていました。センバツ王者・大阪桐蔭に対し、兵庫王者・明石商がどのような戦いで挑むのか、地元の意地を見せつけることができるのか、注目の一戦です。

試合展開

明石商・中森大阪桐蔭・根尾の先発で、試合は始まりました。前半は完全に王者・大阪桐蔭のペースであり、1回にいきなり1点を先制し、2回も中森からチャンスを作った後、代わった加田も攻め立て、2点を追加します。さらに4回にも3点を加え、加田はノックアウト。大阪桐蔭のスキのない打線が明石商を圧倒します。明石商もチャンスは作るもののホームが遠く、我慢の展開となります。

試合の様相が変わったのは、両チームの投手が交代した中盤からでした。明石商は5回に加田から代わった3人目の福谷が好投し、大阪桐蔭打線を封じます。打線の方も、6回についに根尾を捉えて2点を奪い、根尾をショートに下げさせます。大阪桐蔭はピッチャーをエース柿木にスイッチしますが、明石商打線は柿木からもタイムリーを放ち、この回3点を返しました。地元の声援を受け、完全に追い上げムードの明石商はさらに8回裏、3連打を含む集中打で柿木から3点を奪い、ついに同点に追いつきます。

明石商は9回、福谷を下げ勝本をマウンドに送ります。9回はお互い無得点に終わり、試合はついに延長戦に突入します。10回表、大阪桐蔭は連続四球でチャンスを作ると、明石商は投手を溝尾にスイッチ。しかし、ワイルドピッチと犠牲フライで大阪桐蔭が久々の得点を挙げ、7-6と勝ち越しに成功します。

結局、この一点が決勝点となり、試合は延長10回の末、大阪桐蔭が勝利。地力の差を見せつける結果となりましたが、明石商の健闘が光った好試合となりました。

試合スコア 写真
試合スコア

思い出

“最強世代”として甲子園を沸かせた根尾くんをはじめとする大阪桐蔭スター軍団がやって来るとあって、この日の明石はもうとにかく観客が多かったのを覚えています。内野席は試合前から既に超満員で入場規制がかかり、多くの観客が外野芝生席に流れ込んでいました。もともと明石球場は内野席のキャパが少ないのですが、それを抜きにしても明石球場の外野芝生席があんなに埋まっているのを見たのは、プロ野球のオープン戦を除くとこの年のこの春季近畿大会が初めてでした。2018年は夏の選手権が100回大会を迎えるということもあり、高校野球人気が沸騰していたのですが、それを象徴するような盛り上がりぶりでした。

大阪桐蔭が非常に強いことは周知の事実であり、試合前、僕は勝てなくてもいいから明石商になんとか兵庫の意地を見せてほしいと願っていました。それでも試合序盤は完全に大阪桐蔭ペースであり、やはり大阪桐蔭は強すぎる、コールド負けだけは回避してくれ、という気持ちで応援していました。ところが、明石商があれよあれよという間に同点に追いつき、球場のボルテージが一気に高まっていくにつれ、これはひょっとしたら勝てるかもしれない、という淡い期待を抱き、ハラハラドキドキしながら興奮状態で試合に見入っていました。結果的に明石商は負けてしまいましたが、センバツ王者相手に堂々と渡り合う彼らの姿を見て、兵庫野球もまだまだやれるんだ、と改めて認識しました。

この試合の勝敗のポイントは、8回裏の明石商の攻撃にあったと思います。この回、明石商は1点を返し、なおも無死一・二塁のチャンスだったのですが、この時送りバントを仕掛けようとする中で打者が投球を見逃した際、二塁走者が飛び出してしまい、キャッチャーからの送球でタッチアウトになりました。スポーツの世界でタラレバを言ってもしょうがないですが、このアウトの有無で試合の展開は大きく変わっていたような気がします。その後同点に追いついたことをふまえて考えると、明石商はさらに広がったチャンスを活かし、もしかしたら逆転に成功していたかもしれません。そして9回表を凌ぎ、王者・大阪桐蔭に勝てていたかもしれません。そう考えると、このアウトはもったいなかった気がしますし、悔やまれるところです。それほどまでにこの試合はお互いの力が肉薄したギリギリの接戦であり、好試合だったと思います。

結局、この最強世代の大阪桐蔭は春季近畿大会を制した後、夏の甲子園でも全国制覇を果たし、春夏連覇を成し遂げることになります。秋・春・夏の公式戦成績は41勝1敗と、驚異的な成績を残しました。そんなほぼ無敵の絶対王者を相手に明石の公立校が大善戦を繰り広げる姿を目の当たりにして、僕はとても感動しました。

もう一つ印象に残っているのが、新一年生ながら春季大会からスタメンとして出場していた、明石商の来田くんです。切り込み隊長として1番バッターを任されていた来田くんですが、打席に入る前の独特のルーティーンと、良い意味でふてぶてしさを感じさせる、どんな相手にも物怖じしない振る舞いで、当時からもの凄いオーラを放っており、既にスター性が表れていた記憶があります。そして事実、来田くんはその後甲子園に4度出場し、3本のホームランを放って一躍その名を全国区に知らしめ、スターとなりました。以前も少し触れましたが、甲子園において一試合で先頭打者&サヨナラホームランを放ったのも、春夏連続で先頭打者ホームランを放ったのも、長い長い歴史の中でこの来田くんだけです。また、明石商の狭間監督は基本的に無死or一死でランナーが出れば必ずと言っていいほど送りバントを仕掛けるのですが、この来田くんのみ、三年間で送りバントをする姿を僕は一度も見たことがありませんでした。それだけ、当時から打撃センスが抜きんでており、狭間監督もそれを認めていたのです。

来田くんはその後、2020年にドラフト3位でオリックスに入団しました。今でも僕が陰ながら応援しているプロ選手の一人です。今後の活躍を大いに期待しています。

柿木vs来田の打席 写真
柿木vs来田の打席

余談

これは完全に余談なのですが、僕はこの日、午前中にこの明石商vs大阪桐蔭の試合を観て、甲子園に移動し、阪神vs巨人のデーゲームを観戦する予定でした。しかし、明石球場では両チームの得点数が多い上延長戦に突入したため、試合時間が長くなり、甲子園のプレーボールに間に合いませんでした。僕が甲子園に到着した頃、阪神の先発・小野が失点していたこともあり、最初から観戦しながら僕を待っていた友人はプリプリ怒っていましたが、結果的にこの試合は同点で迎えた9回裏に、中谷の三遊間を抜ける超ボテボテのタイムリーで阪神が劇的なサヨナラ勝ちを収め、僕たちは勝利の美酒を味わうことができました。

そんなこんなで、2018年5月26日は朝から晩まで大、大、大興奮の、特別な一日となりました。

甲子園 阪神戦スコア写真
当日、移動して観戦した阪神vs巨人戦のスコア。阪神が劇的なサヨナラ勝利を収めた。
筆者プロフィール
この記事を書いた人
しんのG

高校野球を年間60~90試合ほど現地観戦している関西在住の高校野球ファンです。近畿の高校野球の話題を中心に、ライト層からコア層のファンまで楽しめるような有益なブログを目指して投稿していきたいと思います。
また、音楽も好きなので、音楽関連の想いも綴っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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