白球の追憶#5 熱狂のジャイアントキリング/佐賀北vs帝京(’07夏)

野球ボール 高校野球

このコーナーでは、僕が過去に現地観戦した高校野球の数多ある試合の中で、特に印象に残っている試合を備忘録として振り返り、紹介していきます。
第5弾となる今回は、2007年夏の選手権(第89回大会)準々決勝、佐賀北vs帝京の試合を採り上げたいと思います。
なお、今回はさすがに試合の詳細まで覚えていないので、テレビ中継のVTRを見直した上で自分の記憶を掘り起こしながら語っていきます。試合の写真がないのが残念ですが・・・。

背景

2007年8月19日、第89回選手権大会準々決勝第一試合で、佐賀北vs帝京の対戦が行われました。この大会が開かれた2007年は、甲子園球場の大幅な改修が行われる前の最後の年であり、出場選手が初めて全員平成生まれとなった年でした。そしてまた、野球界が特待生問題で大きく揺れた年でもありました。そんな最中、甲子園では地方の普通公立校である佐賀北が驚くべき旋風を巻き起こしていました。

7年ぶり2回目の出場となった佐賀北はここまで、開幕試合となった1回戦の対福井商戦で勝利を収め、自身甲子園初勝利を飾ると、2回戦の宇治山田商戦では延長15回引き分け再試合の末、後に巨人へ進んだエース・中井大介を攻略し勝利。3回戦でも前橋商を相手に快勝し、あれよあれよという間に準々決勝まで駒を進めていました。左の馬場→右の久保という投手リレーを戦術とし、鉄壁の守備から攻撃のリズムを作り、バントや盗塁といった小技を絡めながらコツコツと得点を積み重ねていく、まさに地方の公立校らしいチームでした。

一方、2年連続10回目の出場となった”東の横綱”・帝京は、前年秋の東京都大会を制すると、この年のセンバツでもベスト4の成績を残しており、優勝候補の一角として満を持して大会に臨みました。投手陣は左の本格派エース・垣ケ原と2年生投手の高島(のち中日)が交互に登板して好投し、打撃陣には不動の4番・中村晃(現ソフトバンク)や2年生の杉谷拳士(のち日ハム)らを擁し、3回戦まで危なげない試合運びで勝利を収め、8強に進出してきました。

下馬評では帝京が圧倒的に優位と思われたこの試合、ここまで旋風を巻き起こしてきた佐賀北が横綱相手にどこまで食い下がれるか、注目の一戦です。

試合展開

佐賀北はこれまでの試合通り、左の技巧派・馬場が先発。帝京は2回戦の対神村学園戦で完投し、好投を見せた2年生の高島の先発で試合は始まりました。
ゲームは序盤から動き出します。1回裏、佐賀北は二死1塁から4番・市丸のライトへのラッキーな当たりとなるタイムリー3ベースで先制します。しかし2回表、帝京は二死3塁から7番・杉谷翔貴のタイムリーですぐさま同点に追いつきます。その裏の佐賀北の攻撃、帝京・高島は簡単に2アウトを取りますが、そこから突如制球を乱し、3連続四死球で満塁となると、2番・井手のレフトへのタイムリーで佐賀北が再び勝ち越します。

帝京・前田監督は突然の乱調を見せた高島を早くも諦め、3回からエース左腕・垣ケ原をマウンドに送り、継投に出ます。しかし、その代り端を佐賀北の3番・副島のバットが挫きます。フルカウントから垣ケ原が投じた8球目のストレートを完璧に捉え、打球は左中間のスタンドに飛び込みます。副島の自身大会2本目となるホームランにより、佐賀北はリードを2点に広げます。

帝京にとっては苦しい序盤となるも、打撃陣がすぐさま反撃に出ます。4回表、ヒットと四球で一死1・3塁のチャンスを作ると、6番・長田の左中間を抜ける2点タイムリー2ベースで再び同点に追いつき、佐賀北に流れを渡しません。佐賀北はその後のピンチを凌ぎ、5回からこの大会ここまで無失点のエース・久保をマウンドに送ります。

試合はこの後、両者得点を奪えず膠着状態となります。しかし、この試合の見どころはむしろここからだったと言えるでしょう。
帝京・垣ケ原は徐々にエンジンがかかり、持ち前の球威のあるストレートとキレのあるスライダーで要所をピシャリと抑えます。前日の3回戦、対智弁学園戦で147球を投げていたにも関わらず、疲れを感じさせない見事なピッチングを見せます。また、バックもこの好投に応えます。衝撃的なプレーが出たのは、8回裏でした。佐賀北の攻撃、二死から久保が打ったセンターへ抜けようかというゴロを、セカンドの上原がバックハンドでダイビングキャッチをすると、そのままグラブトスでボールをショートの杉谷拳士に渡し、杉谷がファーストへ送球して見事アウトに仕留めます。この高校生離れした驚愕の「アライバ」プレーは、甲子園の観客の度肝を抜きました。

一方の佐賀北も、強豪相手に物怖じしない互角の勝負を見せます。エース・久保は外角への絶妙なコントロールで帝京打線を抑え、粘りのピッチングにより勝ち越しを許しません。また、この試合は佐賀北の堅守が特に光っていました。9回表、二死1,2塁と負け越しのピンチを迎え、8回裏にビッグプレーを見せた帝京・上原が久保の変化球を捉えてライト前にボールを運びますが、これをキャッチしたライトの江頭がホームへ素晴らしい好返球。捕殺により失点を阻止します。

これだけではありません。試合は延長に入り、佐賀北は10回、12回に3塁を陥れられるピンチを迎え、帝京はスクイズを敢行しますが、2度とも久保が巧みなグラブトス捌きを見せ、ランナーはホームでタッチアウトとなります。スクイズを想定した守備練習を何度もこなしていたという久保は、ここぞという場面で練習の成果を十二分に発揮し、土壇場で好フィールディングを見せてピンチを何度も凌ぎます。また、延長13回には帝京・垣ケ原が放ったセンターオーバーの大飛球を馬場崎が懸命に追いかけ、フェンスに激突しながらこれをキャッチし、チャンスを作らせませんでした。佐賀北はこうした好守により帝京にペースを握らせず、流れを引き寄せようと必死にもがきます。

そして迎えた延長13回裏、試合はついに決着がつきます。佐賀北は簡単に2アウトまで追い込まれ、この回も無得点に終わるのかと思われましたが、先ほど大ファインプレーを見せた9番・馬場崎が三遊間を抜けるしぶといヒットを放つと、続く1番・辻もセンター前ヒットを放ち、一打サヨナラのチャンスを作ります。そして2番・井手が垣ケ原の2球目を捉えると、打球はジャンプしたセカンドのグラブの僅か先を越えてセンターへ転がり、センターがバックホームするもボールは届かず馬場崎がサヨナラのホームイン。佐賀北がついに死闘を制し、劇的な”ジャイアントキリング”を起こしました。

佐賀北はこの準々決勝で帝京に勝つと、その後決勝まで進み、最後には副島の衝撃的な満塁ホームランで強豪・広陵も破り、なんと全国制覇を成し遂げます。特待生とは無縁の、野球エリートではない所謂”普通の”高校生が、全国の並み居る強豪私学を撃破し勝ち進む様は非常にセンセーショナルであり、”がばい旋風”と呼ばれたこの快進撃は高校野球ファンだけでなく社会的にも大きな驚きと感動を与えました。

試合スコア

思い出

この試合の当時僕は大学生で、夏休みで実家に帰省中でした。準々決勝の二日前も、友達と飲みに行く前に暇だったのでフラっと甲子園に足を運び、第4試合の佐賀北vs前橋商戦を観戦していました。そして準々決勝の前日の晩、ちょうど実家に遊びに来ていた高校野球好きの伯父(佐賀出身)に、「明日観に行こう!」と強く誘われました。僕は佐賀北を応援していましたが、さすがに帝京が相手だと一方的にやられる展開になるだろうと思い、乗り気になれませんでした。翌日の朝も気持ちは変わらず、眠たかったせいもあってなかなか起きられなかったのですが、それでも伯父にしつこく誘われたため、父親も連れてしぶしぶ甲子園に向かったのを覚えています。

出足が遅れたせいで、球場に着いたのは2回の表だったと思います。僕たちはライトスタンドの1塁アルプス寄り、ちょうど「カニトップ」の看板の下あたりに座りました。佐賀北が先制していたことに驚いたのも束の間、追いつかれてもすぐ裏にまた点を取り、3回には副島くんのホームランが飛び出すなど、思ってもみなかった展開に興奮しました。そしてその興奮は、試合終了までずっと続くのでした。この試合は、最後の最後まで天運がどちらに転ぶかわからない本当に面白い試合で、これまで現地観戦してきた高校野球の試合の中でもベストと言ってもいいくらい見応えのある好ゲームであり、甲子園の熱気もものすごかった記憶があります。

副島くんの豪快な一発、帝京二遊間のスーパープレー、久保くんの二度のグラブトスによるスクイズ阻止、馬場崎くんの大飛球キャッチ、そしてサヨナラのシーン・・・。すべてのプレーに甲子園全体がどよめき、割れんばかりの拍手と歓声が鳴りやみませんでした。特に試合終了時などは多くの観衆が立ち上がって拍手を送り、スタンド全体が喝采と歓喜の渦に包まれていました。見事”ジャイアントキリング”を果たした佐賀北、敗れた帝京、どちらも素晴らしいチームであり、生の目撃者になれたことを今でも嬉しく思います。そしてこの試合は僕を含め今も多くの高校野球ファンの心に深く残るものとなりました。あの時僕を強引に連れ出してくれた伯父に感謝です。

また、これは後にテレビ中継の映像を見て抱いた感想なのですが、力投虚しく敗れた帝京のエース・垣ケ原くん、良い意味でふてぶてしく、ポーカーフェイスで堂々としており、エースらしい面構えで僕は大好きでした。敗れた瞬間、それまでのクールな表情が崩れ、涙をこらえて唇を噛む彼の姿はとても印象的でした。プロには進みませんでしたが、「帝京高校」と聞くと僕は今でも垣ケ原くんのことを思い出します。本当に素晴らしいピッチャーでした。

それからこれは僕の所感ですが、佐賀北は大会を通して、試合を重ねるごとに成長し、自身を持ってプレーしているように見えました。そしてそのひたむきな姿は間違いなく観客の心を掴み、味方につけていました。佐賀北の優勝に関しては今でも「有利な判定、誤審があったおかげ」などとケチをつける人もいますが、それだけで優勝できるほど甲子園は甘くありません。佐賀北は間違いなく強かったです。突出した投手力や打撃力はありませんでしたが、この大会での佐賀北の守備力は明らかに全国トップレベルであり、その堅い守備とチームの結束力があってこそ優勝できたのだと確信を持って言えます。

’94佐賀商との驚くべき共通点

この大会で佐賀県勢として1994年・第76回大会の佐賀商以来13年ぶりの優勝を果たした佐賀北ですが、偶然なのか野球の神様の仕業なのか、この両チームの優勝は実に多くの驚くべき共通点がありました。思いつくだけでも、以下の点が挙げられます。

項目’94佐賀商’07佐賀北
佐賀市内の県立校佐賀市神野東佐賀市天祐
開幕試合に登場し勝利vs浜松工(1回戦)vs福井商(1回戦)
猛暑の夏記録的猛暑猛暑
ナイター試合を経験vs北海(準々決勝)vs前橋商(3回戦)
延長戦サヨナラ勝ちを経験vs佐久(準決勝)vs帝京(準々決勝)
九州勢の躍進ベスト8に九州勢4校
(佐賀商、樟南、
長崎北陽台、柳ヶ浦)
ベスト8に九州勢3校
(佐賀北、長崎日大、
楊志館)
決勝戦で満塁ホームランが決勝点西原(9回表)副島(8回裏)
’94佐賀商と’07佐賀北の共通点

と、これだけあります。このうち、特に②と⑦が共通していることは、偶然では片づけられない何かしらの運命を感じさせます。両校ともに開幕戦を勝利してその後決勝まで進み、出場チームの中で最も長く甲子園に居続けました。そして’94の決勝戦では、佐賀商の主将・西原が4-4の同点で迎えた9回表、樟南の好投手・福岡から満塁ホームランを放ち、これが決勝点となりました。長い甲子園の歴史の中で、決勝戦で満塁ホームランを放ったのはこの時の西原が史上初だったのですが、その13年後、史上2本目となる決勝戦満塁弾を放ったのが、同じ佐賀の公立校・佐賀北の副島だったわけです。信じられないような奇跡ですね。

平成の時代に夏の甲子園を2度も制した佐賀代表ですが、その後はなかなか思うような成績を残せていません。2010年に佐賀学園が2勝して3回戦に進んでいますが、それ以外は一つ勝つのがやっとで、2014年~2022年までは春夏あわせて初戦で11連敗を喫するなど、苦しんでいます。ですがこの先、佐賀県代表の公立校が開幕試合に登場してきた際には、ひょっとすると何かが起こるかもしれません。その時を楽しみに待ちたいですね。

なお、この大会で優勝投手となったエースの久保くんはその後、筑波大学に進学し教員免許を取得。2017年には母校・佐賀北の監督に就任し、2019年夏に監督として甲子園に戻ってきました。この時は僕も今回紹介したこの帝京戦をはじめとする当時の熱狂を思い出し、感慨深くなりました。現在は同じ佐賀県内の鹿島で監督をされているようですが、また甲子園での勇姿をぜひ見てみたい人物です。

おわり

筆者プロフィール
この記事を書いた人
しんのG

高校野球を年間60~90試合ほど現地観戦している関西在住の高校野球ファンです。近畿の高校野球の話題を中心に、ライト層からコア層のファンまで楽しめるような有益なブログを目指して投稿していきたいと思います。
また、音楽も好きなので、音楽関連の想いも綴っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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