白球の追憶#2 二試合連続延長15回引き分け再試合(’17春)

野球ボール 高校野球

このコーナーでは、僕が過去に現地観戦した高校野球の数多ある試合の中で、特に印象に残っている試合を備忘録として振り返り、紹介していきます。

第二弾となる今回は、2017年のセンバツ(第89回大会)で起こった歴史的珍事、二試合連続延長15回引き分け再試合を採り上げたいと思います。(福岡大大濠vs滋賀学園、健大高崎vs福井工大福井)

なお、自分の記憶とメモをベースに語っていきますので、事実誤認や勘違いも出てくるかと思いますが、その点は予めご容赦ください。

第1試合終了時写真
当日の第一試合、報徳学園vs前橋育英戦終了時(筆者撮影)。この後とんでもないことが起ころうとは、予想だにしていませんでした。

背景

2017年、第89回センバツ大会が開催されました。この大会は、みんなのアイドル・早実清宮(現日本ハム)や履正社の安田(現ロッテ)、新2年生となった根尾(現中日)をはじめとする大阪桐蔭の黄金世代や報徳学園の小園(現広島)が出場した大会であり、注目度はかなり高いものとなっていました。

そんな大会の第7日目となる3月26日、2回戦三試合が行われました。この日は、第一試合・報徳学園vs前橋育英、第二試合・福岡大大濠vs滋賀学園、第三試合・健大高崎vs福井工大福井という対戦カードでした。

第一試合では、小園や西垣(早大→現楽天)擁する報徳学園が、前橋育英相手に4-0とすんなり完封勝ちを収め、早々に終了します。(試合時間:1時間39分)

なおこの試合の前橋育英の投手は、明大→現ヤクルトの丸山でした。

第二試合 福岡大大濠vs滋賀学園

久々の甲子園出場となった福岡の雄・福大大濠と、2年連続出場となった滋賀の新興勢力・滋賀学園の対戦。福大大濠は三浦銀二、古賀、仲田という後のプロ選手を三人擁する注目チームであり、一方の滋賀学園は宮城滝太(現DeNA)を擁し、初戦で東海大市原望洋との延長14回の死闘を制して2回戦に駒を進めていました。

試合は息詰まる投手戦となりました。初回に滋賀学園が1点先制するも、その後は両者無得点が続きます。滋賀学園は7回途中で先発宮城を降ろして継投に入りますが、8回表に福大大濠がようやく同点に追いつきます。これ以降、得点が動くことはありませんでした。両者ともにヒットは放つものの、長打なしの散発に終わり、そのまま延長15回が終了。引き分け再試合が決定しました。投手戦だったこともあり、試合時間は三時間未満とそこまで長くはなかったです。

この試合、滋賀学園は二人の投手でそれぞれ100球弱を投げ分けたのに対し、福大大濠は先発三浦が196球を一人で投げ抜きました。まさに力投が光る素晴らしい内容でしたが、投手への負担が問題視されてから久しい現代の高校野球界隈において、この采配は一部で批判を浴びることにもなりました。また、滋賀学園はこの試合により2試合で29イニングスを戦ったことになったため、選手の疲労が懸念されました。

 チーム123456789101112131415
福大大濠0000000100000001
滋賀学園1000000000000001
試合スコア

第三試合 健大高崎vs福井工大福井

「機動破壊」でお馴染みの群馬の強豪・健大高崎と、福井の古豪で二年連続出場となった福井工大福井の対戦。健大高崎には、後に巨人へ進む湯浅大と山下航汰がいました。(湯浅は出場せず)

この試合は第二試合とは打って変わって、点の取り合いになりました。三回に健大高崎が4点を先制し試合を優位に進めるかと思いきや、中盤に工大福井が巻き返して逆転。健大高崎はこれにも負けじと追いつき、6-6の同点で9回を迎えます。

ドラマの気配が漂う9回、表に工大福井が連打で勝ち越しに成功します。その裏にビッグプレーが出ました。健大高崎が土壇場2アウトながらもランナーを2,3塁に置き、ここでなんとトリックダブルスチールで再び同点に追いついたのです。まさに健大高崎の真骨頂であるこの「機動破壊」により、試合はまたも延長戦に入ります。

これは乱打戦における高校野球あるあるなのですが、延長に入るとそれまで点を取り合っていた展開が嘘かのように、急に点が入らなくなりました。工大福井はチャンスを作るもあと1本が出ず、健大高崎打線は工大福井の摺石の力投と継投した氏家の前に沈黙します。

最終回となる15回表、工大福井の途中出場・佐藤がライトへ長打を放ち、三塁まで激走します。すると、健大高崎の中継の送球が乱れて三塁ベースを大きく逸れ、それを見た佐藤は一気にホームへ突っ込みます。ついに勝ち越しか、と球場中が盛り上がりましたが、逸れた送球を三塁カバーに入っていたレフトがすぐさまキャッチ。本塁へ送球し佐藤はタッチアウトとなりました。こうして、工大福井は絶好の勝機を逃し、その裏の健大高崎もランナーは出すも凡退。3時間44分の激闘は引き分けで終了となりました。

これによりこの試合も再試合が決定し、なんとこの日の甲子園は前代未聞の二試合連続延長引き分け再試合となったのです。

 チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
工大福井 0 0 0 0 3 3 0 0 1 0 0 0 0 0 0 7
健大高崎 0 0 4 0 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 7
試合スコア

再試合

一日で再試合が2試合発生するなんて、誰も想定していなかったことでしょう。この時の高野連は日程調整に随分頭を悩ませたと推察します。変更を余儀なくされた結果、再試合の2試合は二日後の3月28日に第9日目として行われることとなり、以降の日程は1日ずつ繰り下げられました。この大会は雨天中止も合わせて2日順延となり、休養日は取られないこととなりました。

迎えた再試合第一試合、福大大濠vs滋賀学園はこの日も接戦となりましたが、古賀の2ランなどで福大大濠が5-3で勝利を収めました。福大大濠のエース三浦は、この日も130球を完投しました。第二試合の健大高崎vs福井工大福井は、これまた打って変わって点差が開き、10-2で健大高崎が勝利。地力の強さを見せつける結果となりました。

波紋

高校野球における延長戦のルールは時代とともに変化しており、もともとは無制限でしたが1958年に延長18回までとされ、伝説となった1998年の「横浜vsPL」延長17回の死闘により更なる短縮が叫ばれ、2000年から延長15回までと規定されました。

その後もスポーツ科学の進歩や時代の潮流に沿って選手の健康管理が重要な課題として挙げられ、タイブレーク制導入の検討が進められます。2010年代中頃からは一部の地区大会等では試験的に導入が開始されましたが、甲子園においてはタイブレーク制導入は議論に留まり、当面導入は先送りされる流れでした。この流れを変えるきっかけとなったのが、二試合連続再試合です。この日を境にタイブレーク導入の議論は一気に加速し、ついに高野連も導入止む無しということで、翌18年度より甲子園においても、延長13回からタイブレーク制が導入されました。

前代未聞の二試合連続延長15回引き分け再試合はそれほどまでにインパクトが強く、甲子園の歴史を揺るがす大事件であったと言えるのです。まぁ僕個人の見解としては、この日たまたま延長15回の試合が二試合続いただけであり、タイブレーク制導入についてはもっと慎重に検討してほしかったですが。。(僕はタイブレーク嫌い派です)

ちなみにその後、高校野球では投手の球数制限も導入され、さらに2023年度より、延長10回からタイブレークとなることが決定されました。もちろん、選手の健康管理に気を遣うことは大事なのですが、僕的には高校野球の醍醐味であるドラマ性が減り、どんどんおもしろくなくなっていく気がして何だかスッキリしません。試合で規制を設けるより、むしろ日頃の練習段階での管理の方が重要ではないか、と思います。まだまだ議論の余地はありますが、こんな感じで急速に規制を設けていくと、近々7イニングス制導入を叫ぶ人たちもきっと出てくることでしょうね。もういるでしょうけど。

思い出

センバツを観に行ったことがある人はわかるかと思いますが、春の甲子園は基本的に寒いです。もっともこの時期は一日の寒暖差が激しいため、上着を脱ぐほどの温かい時間帯もありますし、日差しが強いよく晴れた日などは暑さすら感じることもあります。が、基本的にはやっぱり春の甲子園は寒いです。

この日は曇天で非常に寒く、さらに第三試合では雨も降りだし、もうとにかく寒さで震えてどうしようもなかったのを覚えています。その上、2試合連続延長15回なんて、もう正直勘弁してくれよという感じで、早く試合終わってくれないかな、と外野席ずっとブルブル震えながら考えていました。

とは言え、健大高崎の9回のプレーは本当に痺れました。1点を追う9回裏2アウトランナー2・3塁。一打出ればサヨナラ、凡退すれば敗退というこの場面で、健大高崎が導き出した選択肢はなんと、ダブルスチールでした。2塁ランナーがわざとよそ見をし、相手投手の牽制を誘います。それに釣られた投手が牽制球を2塁に投げた瞬間に3塁ランナーがホームへ突進し、見事にスチール成功。同点に追いつきます。このプレー、3球目で起きたのですが、1球目から2塁ランナーのリードは大きく、それとなく牽制球を誘う動きをしていたため、僕は2塁ランナーの動きに注目していました。なので、この瞬間は今でも鮮明に覚えています。まさに野球のおもしろさ、奥深さを体現した、意表を突くプレーでした。この時ばかりは僕も寒さを忘れ、大興奮しました。普段から練習しているサインプレーなのでしょうが、甲子園という大舞台で”ギャンブル”であるこの作戦を実行するなんて、肝が据わっていますし、覚悟も決まっていますね。逆に、甲子園だからこそ出来たプレーだったのかもしれません。これぞ「機動破壊」の神髄という感じでしたし、それを生で味わうことができてとても感動しました。

その後、延長戦が進むにつれて引き分けの雰囲気が濃くなってきた頃は、「これ引き分けになったら日程どうするんやろ」とずっと考えていました。春は一日3試合なので、再試合が1試合だけなら翌日を4試合日にして第4試合で再戦すればいい訳ですが、2試合となるとそうはいきません。既に一日雨天順延していたため、休養日をなくしてでも再試合2試合だけの日を設けるしかないな~と思っていたら、案の定そうなりました。

とにかく、甲子園史上初の二試合連続延長引き分け再試合という、歴史的で奇跡的な一日に立ち会えたことは、物凄く貴重な体験となりました。そしてタイブレーク制が導入された今、もうこの先二度と同じようなことは起こらない訳で、これは最初で最後の、唯一無二の記録となるのです。選手の皆さん、本当にお疲れさまでした。ありがとうございます!

この日、球場を出たのは6時半ぐらいで、体は完全に冷えきって憔悴していました。僕と友人は一刻も早く暖かい場所で温かいものを食べよう、ということになり、急ぎ足で甲子園駅前の魚民に駆け込み、ビールともつ鍋を注文しました。もつ鍋は五臓六腑に染み渡る美味しさで、あの温もりが全身に広がっていく感覚は今でも覚えています。あの時食べた魚民のもつ鍋の美味しさは、一生忘れないでしょう。

おわり

筆者プロフィール
この記事を書いた人
しんのG

高校野球を年間60~90試合ほど現地観戦している関西在住の高校野球ファンです。近畿の高校野球の話題を中心に、ライト層からコア層のファンまで楽しめるような有益なブログを目指して投稿していきたいと思います。
また、音楽も好きなので、音楽関連の想いも綴っていきたいと思います。宜しくお願いします。

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